朝晩はだいぶ涼しく感じられるようになりましたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか? また、この度は台風19号によって被害を受けられた方々に深い哀悼の意を表します。
先月は、大澤さんのインタビューでしたが、今月は“常に笑顔でエネルギュッシュな皆のお姉さま的存在”と紹介して頂きました藤田まり子さんにインタビューにお答え頂きました。是非一読頂ければと思います。
---何故ATCになろうと思ったのですか?---
ATCそのものの存在は知らず、「スポーツ関連のトレーナー」になりたいと思ったのが高校生の時です。小学校からバレーボールをしていましたが、高校まで夏の炎天下の練習でも全く水を飲むことなどできませんでした。唯一飲めるのはトイレに行った時くらい。「こんなの絶対おかしい、自分が変えてやろう。」という根拠のない正義感が最初でした。30年以上前の日本は熱中症の概念などもほとんど浸透しておらず、部活をしている生徒・学生は皆そんなものでしたが…。
その後スポーツ整形外科医の方に進路の相談をし、たぶん新聞記事だったと思うのですが日本人女性で最初にATCとなった田中啓子さんを知って、実際に啓子さんにご相談させていただき、ATCへのあこがれが大きくなったと記憶しています。田中啓子さんには「最終的に日本で働きたかったら医療資格を取ったほうがよい、関連資格ではPTがよいと思います」とのアドバイスをいただいたことで、高校卒業後はまずPT養成校に入学し、養成校卒業後はPT臨床経験を積まずにすぐ渡米しました。
渡米後も解剖学、生理学、運動学などの基礎を知った上でathletic trainingの勉強に入れたこと、何より帰国してからの日本での仕事でもPTとしてのベースは生きているので本当に良いアドバイスをいただいたことにとても感謝しています。
ちなみにですがこの当時の相談はまず手紙からなので、アメリカにair mailで手紙を送ってその返事を受け取るまで少なくとも2~3週間がかかっていました。E-mailですぐに返事がもらえ、何よりインターネットで何でも情報を調べられる今の社会とは隔世の感があります。
---学生、社会人時代に、印象に残っている出来事はありますか?---
他のATCの方にもいらっしゃいましたが、やっぱり英語は苦手で、もちろん(?)今も苦手です。学生トレーナーの頃はトレーニングルームに電話がかかってきて自分が出ざるを得ないときはものすごく緊張しました。人の名前のスペルを書くことなど、アメリカ人なら小学生でもできそうなことが一気にできなくなったなぁ、と実感したことを覚えています。
ただ拙いながらも頑張っていることは伝わっていたようで、女子クロスカントリーチームについていた時に選手から「英語が母国語でなくても伝えようとすることが大事だよ、Marikoみたいに」と言ってもらったことがすごくうれしかったです。
Athletic Training Studentでありながら、大学編入後の最初の1年間は大学の女子バレーボール部で選手としても活動していました。当時の私はバレー部の練習や試合の「肉体労働」の方が、授業などの「頭脳労働」よりずっと楽、と思っていました。今だと逆ですけどね。
---現在の仕事内容を教えて下さい---
龍谷大学に職員として雇用され、大学内のトレーニング室(ATルーム)でアスレティックトレーナーとして勤務しています。私を含めてATは4名で、1名は滋賀県内の学舎に勤務しています。基本的にはスポーツで起きたケガの評価、リハビリメニュー作成ですので、アメリカの大学でのトレーニングルーム運営と似ていると思います。仕事には各運動部の指導者やStrength & Conditioningコーチ、所属課の事務職員の方とのコミュニケーションなども含まれます。
また土日祝日には試合帯同業務が入ることもあります。
---現在の1日の流れを教えて下さい---
平日:
11~12時出勤:
事務作業(前日のカルテ処理、報告書作成)、AT、SC、指導者、事務局との連絡などをします。ATルーム開室時間までに持参のお弁当+学食の小鉢・味噌汁で超節約ランチ(総額が200円で収まる)。休憩時間はATルーム開室までの時間帯に自分で自由に設定できますが、学生で食堂が大混雑の時間を避けるので、同僚のATの皆さんやSCアシスタントさんと一緒に食べることが多いです。ちなみにですが、この学食は2014年度龍谷大学にて行われたJATOシンポジウム懇親会場でしたので、来られたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
15:00~20:00:ATルーム開室
ATルーム利用者の対応になります。ケガの評価、リハビリメニュー作成や実際の指導、練習前のテーピングが主な仕事になります。利用者は99%が体育局所属学生で、龍谷大学は体育会ではなく体育局と呼んでいます。場所は体育館の1Fにありますので、体育館内の競技だと緊急対応をすることもあります。
20:00~20:30 ATルーム閉室、片付け、清掃。
20:30~21:30
カルテ記入など事務作業。21:30で体育館が閉館するのでめちゃくちゃな残業はありません、というよりできませんが、働きすぎる人種が多いATですのでむしろいいことだと思ってます。
土曜:ATルーム開室時間 13:00~16:30
開室時間が短縮される以外は平日と仕事内容は変わりません。
授業がない夏期休暇、春期休暇期間中などはATルーム開室時間が10:00~16:30に変わるので、平日の勤務時間は3時間半前倒しになります。
日曜、祝日:契約上は休日
アメフト、ラグビー部などの試合帯同が入ることが多いです。仕事としての帯同業務が入っていなくても、4~12月の休日はどこかの部の試合を見に行くことがほとんどです。仕事としての試合帯同時は振替休日がもらえます。30代までは振替休日の土曜日にグランドで働いて、あるいは休日にグランドで働いて、結果的に週7日働くことが当たり前でしたが…。40歳直前に肺炎で入院したことをきっかけに休むことも大事と思うようになりました。アスレティックトレーナーは選手と同じくらい身体が資本ですから。
---藤田さんにとってJATOとはどのような存在でしょうか?---
日本に帰国した頃、ちょうどJATOが誕生する頃でした。情報もなく、自分以外のATCの方と接することができるのはJATOしかありませんでしたから、先輩方から色々とお話を伺う場でした。私の最初の仕事(NKK男子バスケットボール部でのアスレティックトレーナー)は前JATO会長の泉さんにJATO発足のためのミーティングでお会いして、泉さんから紹介していただいたことがきっかけです。
今はネットやSNSで実際に会ったことがなくてもつながりができるのですが、直でATCの方々の熱意を感じることができる貴重な存在です。またNATAの公式affiliateであることはATCとしてとても心強いです。
---JATOに加入するメリットを教えて下さい---
若い方々は加入するメリット、デメリットを考えるようですので、これも時代だなぁと思います。前述のように、私が帰国した頃は他のATCの方々とつながるためにJATOに入らない選択肢はありませんでした。
現在個人で仕事ができている方は必要性を感じていないかもしれませんが、組織でないと大きな仕事、例えば今年の「WFATT2019 第10回ワールドコングレス東京」主催などは不可能です。なので、自分個人のメリットというよりATCという職業・職域の認知度を上げることや、団体であるからこそできる社会貢献をメリットと考えればよいのではないかと思います。
私個人では、やはり多くのATCの方々と話ができたり、自分には考えられないパワーと情熱を持った熱い人たちに刺激をもらったりできることが一番のメリットです。
---これからATCを目指している学生にメッセージをお願いします---
旧体制も含め日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー制度ができて20年以上が経っており、今の日本でアスレティックトレーナーとして活動するのに必ずしもATCである必要性はなくなりました。
スポーツ関連の仕事も今や細分化されており、職業としてスポーツと関わりたい方には様々な選択肢があります。「絶対にATCになろう」という強い意志があればもちろんチャレンジすべきですが、ATCになることで最終的に何をしたいのかが大事だと思います。
今振り返ってみて、アメリカで過ごした3年半は単にATC資格を得るためだけよりも、狭い日本から出て文化や価値観の違う人たちと触れたことがその後の自分に大きな影響を与えています。異国で大変なことはたくさんあるけれど、ぜひチャレンジ精神で頑張ってください。
藤田さん、お忙しい中インタビューにお答え頂き誠にありがとうございます。ATCを取得し、帰国後に日本の医療従事資格取得をされる方が多い中で、藤田さんは先輩からの貴重なアドバイスに基づき、渡米前に資格を取得され、帰国後は日米で勉強されたことを余すことなくアウトプットし、多くの学生達に影響を与えている様子が伺えました。来月は、”2013年度に龍谷大学にて苦楽を共にした仲間”を紹介して頂きましたので、是非楽しみにしていて下さい!