
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。先日のアメリカからの日本人快挙の嬉しいニュースもありましたね。
さて、先月は、直感的にATCになり、JATOスカラシップを作り上げた東伸介さんでした。今回は、アスレティックトレーニングを愛し、ラグビーチームに愛され、長くアスレティックトレーナーとして活躍されている海江田晃さんにインタビューさせていただきました。
アスレティックトレーニング愛に溢れる想いをぜひご一読ください!!
---アスレティックトレーナー(ATC)になろうとしたきっかけを教えて下さい---
日本での学生生活で大学までラグビー部に所属し、競技者として、特に腰痛に悩まされトレーニングができないことが多々あり、その中で“日にち薬”で症状の改善を待つという経験が重なり、他に何かできることがあるのでは?という疑問に至ったことだと思います。消炎鎮痛と患部外トレーニングでは根本の“問題解決”にはならない。リハビリという言葉は当時、20年以上前からありましたが、今考えるとリハビリという概念は様々だったように思われます。少なくとも、私のような、エリートアスリートではないスポーツ選手には“リハビリ”を知る機会は希少だったのではないかと思います。そんな経験から、スポーツ医療に関心が高まっていきました。日本の大学を卒業する時に日本国内で就職するか?アメリカでアスレティックトレーニングを学ぶか?悩んだ末に、就職を選びました。1年半ほど電機メーカーで営業職を務めました。そんな遠回りをしながら、最終的にSan Diego州立大学に語学留学から始まって、英語に苦労に苦労を重ね、大学院にてBiomechanicsを勉強しながら、当時のインターンシップによるプログラムで2002年にATCとなりました。日本でアスレティックトレーニングを学ぶという選択肢もありましたが、「4年制大学でのプログラムとしてしっかりと確立しているアメリカでアスレティックトレーニングを学びたい」という考えと、「アメリカで勉強してみたい」という若い頃からの希望があったので渡米を選びました。少し話はずれますが、現在に至る仕事の中でも、留学したことによって得られた語学力は大きく役立っています。その他でも色々な国の方々に色々な場面でコミュニケーションをとれる事は大きな私の財産になっていると思います。
---アメリカでの学生トレーナー時代に苦労したことや大変だったことはありますか?---
まずは学生トレーナーになるのに苦労しました。インターンシップ・プログラムだったため、大学のプログラムには入っていませんでした。 ですので、インターンシップ先を自力で探すことから始まりました。もちろん大学のプログラムアドバイザーの方のお力もお借りしましたが、最終的にはアポイントメントなしでカレッジに行って、“インターンシップさせてください”っとタドタドしい英語でお願いしに行きました。アポなしなのでヘッドトレーナーが不在で出直したり、現地に行ったらATCの方ではないトレーナーの方がいたり・・・。最終的には小さなカレッジのトレーニングルームで受け入れて頂き、何も分からない私に丁寧に指導をしてくださる素晴らしいインターン先で学生トレーナーとしてのスタートを切ることができました。学生トレーナー時代からかなり時間が経っているので苦労したことはほとんど忘れましたが、、、とにかく“長い時間働いてたなー”というのが記憶に残っています。それが苦労とは当時もあまり感じていない楽天的な性格が今につながっているのではと思います。月日が経つ中でインターン先はカレッジだけではなく、地元のラグビーチーム、S&Cを勉強するためにオリンピックトレーニングセンターと複数の現場で貴重な学びの場を得ることができました。
大学院に入ってからはTeaching Assistant (TA) を大学の授業でボランティアでもさせて貰いました。実際はTAというよりも、自分がもっとその授業を勉強したかったのが理由だったと思います。話はずれますが、何も事前調査をせずに留学した大学には故ボブ・モア先生(Bob Moore)というアスレティックトレーナーとしてのみではなくPTとしてPNFというリハビリ主義に卓越した先生にお会いすることが出来ました。日本でPNFのワークショップを何回も指導されていたこともあり、とても親日の方で日本人の私にとても良くしてくださいました。しかも元ラグビープレーヤーだったこともあり、TA時代は授業そっちのけで週末のラグビーの試合の話、日本の話で盛り上がり授業が遅れてしまうことも・・・。受講している学生さんにはそのような授業からの脱線がとても好評でしたが、笑。そういえばモア先生は猫も飼われていて、私も実家で猫を飼っていたこともあり、猫の話でも授業からは脱線してしまっていました・・・。色々思い出してきました、笑。話はここでも脱線しましたが、TAとしてPNFを中心とした内容のTherapeutic Exerciseを数セメスターお手伝いさせて頂きましたので、通算3回ぐらいは同じクラスを受講できたのでは思います。それは今でも私のアスレティックトレーナーとして、リハビリを受け持つアスレティックトレーナーとしての大きな財産になっています。朝早い時間の授業に数年間通わせていただいた事に今でも感謝の気持ちでいっぱいです。
---帰国後から現在の仕事に至るまでの過程を教えてください。---
本帰国を前に幸運なことに、現地でお会いした方のご紹介で日本での仕事を見つけることができました。2004年4月からホンダヒートにてヘッドアスレティックトレーナー、S&Cコーチを4年間兼任させて頂きました。アスレティックトレーナーとしてのフルタイムの仕事がいきなりヘッド+S&C兼任ということで、とても緊張感を感じるスタートとなったことを覚えています。2008年4月からNTTドコモ レッドハリケーンズにてヘッドアスレティックトレーナーとして5年間、その期間中S&Cも一時期兼任させて頂きました。東京生まれ東京育ちの私にとって大阪という地で“色々な刺激”を頂きました、笑。2013年から3年間NTTコミュニケーションズ シャイニングアークスにてヘッドアスレティックトレーナー、2016年4月から現在に至るまでパナソニック ワイルドナイツにてアスレティック&RTPトレーナーとして3年目を迎えさせて頂いています。学生時代からの因縁か現在に至るまでラグビーチームにてアスレティックトレーナーとしての仕事をさせて頂いています。
---現在の仕事内容を教えて下さい---
アスレティック&RTPトレーナーという役職でチームサポートをさせて頂いています。RTPとはご承知の通りReturn to Playの頭文字をとったものです。現在のチームに赴任する際、チーム側から求められていた技能が怪我をした選手をただ練習に参加できる状態ではなく、パフォーマンスを発揮できるレベルにまで戻し、練習に戻すことでした。当初、チーム側からはRTPコーチという役職名を初めに提案頂きましたが、私の“こだわり“をチームに受け入れて頂きコーチではなくアスレティック&RTPトレーナーとして頂きました。
主な職務は怪我人の患部のリハビリがメインの業務ですが、その中には患部外のトレーニング、コンディショニング(フィットネス)プログラムも行っています。ですので、怪我をしてしまった選手のラグビースキル以外のトレーニングの全般を担当しています。下肢の怪我であれば、リハビリ後期にはランニングでのコンディショニング、コンタクトプレーの確認なども行い競技復帰への最終準備、トレーニングまで行います。
アスレティックトレーナーとして、試合時はフィールドにて試合中の傷害評価に基づいた当該選手の試合継続の不可の判断、応急処置、緊急時対応の職務を行うとともに、練習試合時、練習時の緊急時対策等を行っています。傷害予防としてPrehabというプログラムを作成し、ウェイトトレーニング前に全選手に“ウォームアップ”の一部としての取り組みのサポートも行っています。
---現在の1日の流れを教えて下さい---
現在所属しているチームには一般社業を行っている選手が多数在籍しています。そのような選手は出社前にウェイトトレーニングを行う為5:30にはチームのクラブハウスに到着して選手が来る前の準備をおこないます。6:00頃ウェイトトレーニングの前にはPrehabと題し、傷害予防、パフォーマンス向上を目的とした15分間程度のプログラムを行っているので、プログラム指導とともに、選手のコンディショニングを確認することから実務が始まります。クラブ施設の規模上、ウェイトトレーニングを4つのグループに分けて行っています。怪我人の人数や、状況にもよりますが、7時過ぎから順次リハビリを開始していきます。練習から離脱しているリハビリ組の選手はチームのスケジュールとは違ったスケジュールにてリハビリ患部外トレーニング、コンディショニングを行います。午前中にラグビー練習が行われる日もありますが、私はリハビリ選手のリハビリ、トレーニングを見ることがメインの仕事ですので、練習をカバーすることは他のトレーナーの仕事となっています。食事は選手がトレーニング後にすぐ摂ることの必要性からクラブハウスにて供給されますので、その食事を私たちスタッフも希望者は摂ることができます。昼食後はその日によりますが1-2時間程度時間ができますので、食事の後は休憩を取ることが可能です。リハビリ選手のトレーニング、リハビリプログラムはその日の状態によっても多少変わりますので、午前中の状態を踏まえて午後のプログラムの作成、変更を行う時時間に使いますが・・・いち早く終わらせて、目を瞑ることも多々あります、笑。週の初めには選手のコンディショニングチェックを怪我の予防の為に行います。ウェルビーイングのアンケートを選手に記録してもらい、簡易なスクリーニングを行い主な関節、軟部組織の可動域、柔軟性を計測し異常がないか確認もします。朝一集めたデータを昼休みに集計し、選手及びコーチへフィードバックも午後の練習前に行い、“防げる怪我”を防ぐ努力をチームにて行っています。
午後は引き続きリハビリ選手のリハビリ、トレーニングとなりますが、可能な限りチームの練習時間に合わせて、グランドにて走れる選手のRehab Runと名付けた走り方の確認、もしくはRunning Conditioningが行える選手はグランドでしっかり走ってもらい、息を上げる“お手伝い”をさせて頂いています、笑。また、コンタクトスポーツですので、コンタクトができるかの確認を行ったりします。無論、私が相手では確認になりませんので、時には練習が終わった選手を捕まえてコンタクト確認の手伝いをしてもらっています。夕食もクラブハウスで食べさせていただけるので、6時ごろまでにはデスクワークも終わらせるようにして、食事を頂いて一日の業務を終わらせます。もちろん、デスクワークが“終わる”ことなど一日もありませんが、笑。翌日のリハビリ選手のスケジュールだけは泣く泣く作成して、無理やり終わりとしてます、笑。
---海江田さんにとってJATOとはどのような存在でしょうか? ---
米国から帰国して、日本で仕事をしていくうえで類似した境遇で仕事をしている仲間、先輩、後輩と出会える組織。また、同境遇の中で共有できる問題への対応策、強みの確認・・・等でしょうか?
---JATOに加入するメリットを教えて下さい---
故モア先生がNATA発足当時、“会費を払うメリットなど何もなかった。会費を払うのはアスレティックトレーナーとして、アスレティックトレーニングの発展の為の義務だ。”というようなお話をされたことを覚えています。年会費のみではなく今後はJATOの活動に積極的に参加、協力させて頂きたいと、、、早数年の月日が経ってしまっています、笑。JATOの活動をサポートすることで日本のアスレティックトレーニングの発展に繋がることがJATOに加入するメリットであると信じています。
---これからATCを取得してアスレティックトレーナーを目指している学生にメッセージをお願いします---
アスレティックトレーニングのみではなく、様々な失敗、成功を経験して目標に向かって進んでください!時には遠回りすることも、決して悪いことじゃないと思いますよ、笑。
海江田さん、お忙しい中お時間を頂き誠にありがとうございました! アスレティック&RTPトレーナーという肩書きにて働く海江田さんの“こだわり”が素敵だと感じました。今度ともJATOの活動に積極的に参加、ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。来月インタビューには、元JATO会長でスポーツセーフティのパイオニアのあの方にインタビューいたします。楽しみにしていてください!



