
朝夕の涼しさに、秋を感じる今日この頃、お変わりなく、お過ごしでしょうか?さて、毎月15日にJATO会員の活躍をリレー形式紹介企画として、世界各国で活躍しているメンバーをFacebookとHomepage (Blog欄)で紹介しています。 先月は、現在は日本とアメリカとで精力的に活動されている石井健太郎さんのインタビューでしたが、今月は石井さんからご紹介頂きました細川由梨さんになります。JATOの研究教育委員としてもご協力いただいており、この夏には熱中症に関する記事 https://www.jato-trainer.org/2018/07/31/第1回jatoアカデミック情報アップデート企画/ も提供していただいた、細川さんのインタビューお楽しみ下さい!!
---アスレティックトレーナー(ATC)になろうとしたきっかけを教えて下さい---
父の転勤で6年生から10年生の間をアメリカで過ごしていた時に、学校の授業でキネシオロジーやアスレティックトレーニングという分野の存在を知る機会が何度かありました。アスレティックトレーニングが自分の好きな生理学とスポーツを融合できる分野であることに魅力を感じ、15、6歳の頃にはこの分野で学位をとりたいと決めていました。アスレティックトレーナー (ATC)になると決めたのは早稲田大学で中村千秋先生のゼミに所属してからです。早稲田大学在学中は学生トレーナーとして活動していましたが、日米でのトレーナー経験をお持ちの先生の元で勉強を重ねていく中で、私もアメリカの「医療従事者としての」アスレティックトレーナーを知りたいと思い、2度目の渡米を決意しました。
---アメリカでの学生トレーナー時代に苦労したことや大変だったことはありますか?---
日本で4年間勉強してきたことを一度封印して、偏見なくアメリカのアスレティックトレーニングを一から学ぶことには当初とても苦労しました。特に資格・教育制度の違いから、アメリカでは有資格者になるまで選手のケアに直接関われない場面が多くあり、現場での自由がきかないことから最初は物足りなさを感じていたこともありました。しかし、これは資格をまだ持たない学生やケアを受けるアスリートを守っているのだ、と気づいてからは日米のスポーツを取り巻く文化や制度の違いについても興味が沸くようになり、マクロな視点でアスレティックトレーニングと向き合うことができたと思います。
---アメリカでのアスレティックトレーナー(ATC)として、印象に残っている出来事がありましたら、教えてください---
ランニング大会のメディカルテントで治療した熱射病患者のランナーから後日「あの時私の命を救ってくれてありがとう」という感謝の言葉をもらった時のことは、とても印象に残っています。労作性の熱射病による死亡は100%防ぐことができるということを提唱し続けることの大切さを改めて実感した瞬間でもありました。


---帰国後から現在の仕事に至るまでの過程を教えてください。---
在米中はいつか帰国して日本のアスレティックトレーニングの発展に貢献したいと考えていましたが、博士修了時はまだ帰国を考えておらず、コネチカット大学のKorey Stringer Instituteでポスドクとして研究を続けることを選択しました。ポスドク期間中は「ATCの研究者」として自身の専門性をさらに高めることに専念していました。というのも、博士課程に進学するまで研究とは全く縁のない学生生活を送っていたので、研究者として自立するためにはもっと頑張らなければいけないという焦りがありました。そのため、ポスドクの選択は「ATCの研究者」として頑張る、と決心した瞬間でもあります。博士課程在籍中はATCでありながらもスポーツ現場を拠点としていないことに劣等感を少なからず感じていたので、ポスドクを通して得た自信は「ATCの研究者」としてのアイデンテティを築くエネルギーになりました。帰国後も研究活動を継続したかったため、就職活動は大学に絞って行なっていました。大学の公募は毎年出るわけではないので、現職の立命館大学の公募に合わせて帰国することができたのはとても運が良かったと思います。
---現在の仕事内容を教えて下さい---
現在は立命館大学スポーツ健康科学部の講師として、研究入門やアスレティックトレーニング関連の授業を主に担当しています。前学期は英語の授業も担当し、海外学会での発表を意識した授業を展開しました。授業以外では熱中症のメカニズムや予防に関する資料を各方面(メディア・競技会・運営団体)に提供し、熱中症に関する正しい知識の啓蒙活動を行なっています。
授業のない時間のほとんどは論文の執筆に充てています。
---現在の1日の流れを教えて下さい---
授業がある日とない日で異なりますが、朝の早い時間帯(1限前)は論文を読んだり、執筆したりする時間に当てています。海外の研究チームとの会議などが入るのも大体この時間になります。日中は授業や会議、それらがない日は授業の準備かデータの解析を延々と行っています。


---細川さんにとってJATOとはどのような存在でしょうか? ---
JATOは日本人ATCの歴史や絆を感じることができる特別な存在です。一人で活動しているときはあまり気づくことがなくても、シンポジウムやレセプションで集合した時に不思議な一体感を感じるのは、全ての日本人ATCが2〜3次の隔たり(2-3 degrees of separation)で繋がっているかだらと思います。
---JATOに加入するメリットを教えて下さい---
「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」というアフリカの有名な諺があります。一人で行動すれば目標地点に早く到達できるかもしれないけど、(一人では達成できないような)より大きな目標を達成したいのであれば、仲間を募って互いに協力しあって進みなさい、という意味の諺です。 JATOの役割・メリットはアスレティックトレーニングの発展を願う仲間が集まる場所であることだと思います。
---これからATCを取得してアスレティックトレーナーを目指している学生にメッセージをお願いします---
自分の興味や得意な分野を知るためには、枠にとらわれない広い視野で、是非たくさんのことにチャレンジしてください。チャレンジの過程で、当初思い描いていた形とは違う道に進むこともあるかもしれませんが、それは失敗ではなく、そういうご縁だったのだ、と巡り合わせに身を委ねる事も時には大事です。紆余曲折しながらも、皆さんがそれぞれに合った目標を見つけ、いつかそれを達成することを応援しています。
チャンスが来た時にしっかりとそれを掴むことができるよう、日々インプットに励むことはもちろん大事ですが、アウトプット(外に発信)しないことには周りには伝わりません。JATOをはじめとする「仲間」が集う場でどんどん夢や目標を発信していきましょう!
細川さん、貴重なお話ありがとうございました。ATCの研究者として国内外で活躍されている細川さんの活動は、今後の日本でのアスレティックトレーニングの発展・普及にとって欠かせないものであると感じました。「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」はJATOの役割としてぴったりの言葉ですね。次回のインタビューは、JATOのスカラーシップを作り上げたあの方をご紹介いただきました。また、1ヶ月後を楽しみにお待ち下さい!!